
「勉強すればするほど、こんな知識で魚のことを発信していいのかと葛藤します。でも、料理人と
して発信していかないと何もはじまらへんと思うようになりました」
京都市から電車で約1時間。仲本章宏さんの「リストランテ ナカモト」は、奈良との県境に位置す
る木津川市にあります。お店のある場所にはもともと、仲本さんの祖母がはじめた「仲本食堂」が
ありました。父がその定食屋を継ぎ、いまは仲本さんが同じ場所でイタリアンレストランを営んで
います。Chefs for the Blue京都のメンバーの仲本さんに、料理人として学び続ける理由を聞きま
した。
「魚が少なくなり、値段も上がっているというのは、飲食店を15年間やってきて強く感じています」
仲本さんはイタリアの三つ星レストラン「エノテーカ ピンキオーリ」、ニューヨーク、東京のレストラ
ンで働いたのち、2011年に地元で「リストランテ ナカモト」を開業しました。
当時から続けているのが深夜の勉強会。ワインの試飲会からはじまり、パティシエから技術を教えてもらったり、写真家から料理の撮影方法を習ったり、いまも年に数回は開催しています。
「10人くらいのシェフが集まると、魚の熟成や肉の保存方法までいろいろな話ができます。雑誌に
載っているインタビューやレシピを読んでいつも思うのは、“行間”がわからないことが多いというこ
とです。
でも、そのシェフに実際に会えたら、『ここどうなんやろう』という疑問もすぐ答えてもらえます。夜
中に開催するのはハードルが高いですが、意識や技術の高いオーナーシェフや料理長クラスの
かたたちが集まってくれますね」
あるとき、「サステナブルな魚」をテーマに勉強会を開催したことがあったそうです。でも、会は基
本的な話にとどまり、物足りなさを感じたと話します。
「どうやったら魚のことを勉強できるのかなと思っていたときに、Chefs for the Blue京都を立ち上
げたチェンチの坂本健さんから声をかけてもらいました」
勉強会に参加するようになって、「何も知らなかったことを痛感した」と振り返ります。
「魚が減っている理由を『温暖化でしょ?』くらいにしか思っていなかったのですが、実際には、魚
の獲り方や流通の構造などいろいろな要因があります。そのなかで、料理人の僕らができること
と、できないことがはっきりわかるようになり、『自分たちに何ができるのか』を考えられるようにな
りました。資源管理を求めて国に政策提言を出す方法があるなんてことも知らなかったです」
それでも最初は魚を使わないほうがいいのではないかと悩んだ時期もあったようです。
「そこから、いろいろ勉強し、シェフたちと話をするなかで、食文化も残しながら豊かな海も残すた
めにちょうどいいバランスを探そうと思うようになりました。いまは、資源管理や、魚が手元に届く
までに誰がどういう形で獲り、どういう経路で届いているのかを気にかけています。勉強しに行っ
た漁師さんに電話をして魚を送ってもらうこともあります」
やむを得ず店を休んで、勉強会や漁業現場の視察に参加することもあります。
「休むだけの価値のある学びがあります。漁港にひとりで行って話を聞くのと、20人の料理人で
行って帰りの車のなかで『ここはこうやった』『僕はこう感じた』と話すのとではやっぱり全然違いま
す」
また、メンバーのシェフたちとの出会いはかけがえのないものだといいます。
「有名無名がすべてではありませんが、名前の知られているシェフたちは背景がとても豊かで
す。いつも順調だったわけではなくて、つらい時期を経ていまがある人もいれば、いまも悩み続け
ている人もいる。そういう背景があるからこそ、素晴らしい料理ができるのだと思います。写真を
見ても『この料理はこの人や』とわかるような、料理そのものが語りかけてくるものをつくれる人た
ちです。そういう実力のある人たちが同じ問題に向き合っている。それだけ、海のサステナビリ
ティは大きなテーマなのだと思います」
オンラインで取材を受けてくれた仲本さんの背後には、壁一面に本が並んでいました。なぜ仲本
さんはこれほどまでに学ぶことに貪欲になれるのでしょうか。
「知りたいからじゃないでしょうか。学んでいくと頭がパンクしそうにもなるけれど、『これでいい』で
終わらせずに、誰かに聞いたり、時間があれば見に行ったりする。その繰り返しが大事だと思い
ます」
それはすべて目指す料理をつくるためです。
「やっぱりお客さんに美味しいものを提供して、『美味しかったよ』と言われたいです。言いかたが
合っているかわからないですが、チヤホヤされたい(笑)。だから勉強しています。それに『これを
教えてほしい』と質問されたときに恥ずかしくないようにしたいし、自分の意見をきちんと言えるよ
うにもなりたい。嘘もつきたくない。勉強することがたくさんあって、毎日忙しいですね」