「魚が減り、小さくなっているのは、山にも原因があると考える漁師さんもいます。獣害や管理不足によって山が荒れ、海に流れ出る栄養分が減っているのです。山を守ることが、海を守ることに繋がる。猟をする僕だからこそ伝えられることがある気がします」

C-BlueメンバーインタビューVol.3は、「ラチュレ」の室田拓人シェフです。狩猟免許を持ち自らジビエを獲る室田さんは、昨今の山の変化を目の当たりにしてきました。海の問題も山の問題も、根っこでは繋がっています。自然と共生していくために、人が果たすべき役割について語っていただきました。

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2009年に狩猟免許を取得した室田拓人シェフ。以来、猟期には毎週のように山に入り、その変化を見つめてきました。

温暖化の影響で北方から渡る鳥が減る一方、シカやイノシシなど四つ足の動物は増え続けています。伐採が進んだ森や手入れされなくなった里山林は荒廃し、土砂崩れや倒木が頻発。お腹を空かせた動物たちが樹木の皮を食べてしまい森はさらに弱っていく……

「自然がおかしくなっているのを感じます」。

これは、山だけの問題ではないと室田シェフは言います。

「魚が減り、小さくなっているのは、山の変化にも原因があると考える漁師さんもいます。川や地下水を通じて山から流れ出る栄養分が減っているから、魚の餌になるプランクトンが育たないのだ、と。

海と山は繋がっていて、特に日本はその距離が近い。自然はすべて循環しているのだから、海を変えるためには山についても考える必要があると思います。

食物連鎖の頂点にいる人間が、そのバランスを取っていかないと。

僕たちは、地球の資源を次の世代に繋いでいく責任があると思うのです」。

現在、店ではMSC認証*オマール海老の他、持続可能な漁業を目指す漁師から直接買い付けた魚介類を使用。自ら漁師のもとを訪ね、話を聞き、考え方や漁業の内容に納得した上で取引をしています。

対馬の一本釣り漁業者が獲ったマサバやキジハタ、チカメキントキ、さらに養殖鯉などの淡水魚もメニューに並びます。

「鯉を使った料理は、実はフランスにもあるんですよ。魚というと海に目が行きがちですが、日本には淡水魚もたくさんいる。鯉は多くの海水魚養殖とは違い、植物性の餌主体で育てられるので環境負荷も低いんです。家庭ではちょっと扱いにくいけれど、僕たち料理人なら工夫して美味しく提供できる、鯉のような魚もどんどん使っていきたいと思っています」。

室田シェフは地元の課外教育グループに協力し、小学生の食育活動にも長く力を入れています。

水産資源の減少、山の荒廃、フードロス……今、食の世界が抱えている問題を、しっかり話せば子どもたちは正面から受け止めてくれます。そしてもその子供たちが、それらについて家庭で話す機会を持ってくれれば、両親をはじめ家族の心にも届くのです。

そしてもう一つの狙いは、彼らに料理の世界に興味を持ってもらうことです。

「子ども食堂では、みんなで料理を作って食べます。その楽しさを知ってほしい。参加した中から一人でも、将来、料理人になる子がいてくれたら」。

人材不足は、飲食業界が直面する喫緊の課題の一つです。成り手を増やすためには、料理人が厨房の外に出て、積極的に社会貢献していくことも大切だと室田シェフは言います。

「Chefs for the Blueの取り組みも、そういった活動のひとつですよね。料理人の社会的地位が上がれば、子どもたちが憧れる職業になるはずなんです。

何としてでも、人材を増やしていきたい。

どれだけ素晴らしい食材があっても、料理人がいなければ食文化は廃れてしまいますから」。

*持続可能な漁業で獲られた水産物