C-BlueメンバーインタビューVol.14は、「チェンチ」坂本健シェフです。Chefs for the Blue京都チームの発起人であり、立ち上げ以来リードシェフを務める坂本シェフ。「どこか他人事だった」という課題解決に向けた取り組みに、自ら動き出したのはどんな思いからだったのでしょう。発足してからの歩みと、京都チームとして目指す未来について伺いました。


「料理を通じて伝えることが、『おいしさ』だけでよいのか」。店のオープンから7年がたち、「たくさんのお客様に喜んでいただく」という目標地点にたどり着いたころ、ふとそんな風に考えるようになったと坂本さんは言います。

「うちで取り引きしている農家さんは、収量や効率よりも、環境への配慮や信念を大切にし、オーガニックや自然農に果敢に取り組んでいます。『あしたの畑』という食とアートの未来を考える活動で関わりのあるアーティストや工芸作家さんも、メッセージを明確に持って作品を作っている。そんな彼らに共感しリスペクトするうちに、僕も料理に『おいしさ』以上の意味を持たせたいと思うようになりました」。

魚が減っている、獲れる時期が変化しているなど海の変化を肌で感じ、Chefs for the Blueの活動を発足当初から追い続けていたという坂本さん。ここにきて改めて、海の問題を自分事として捉え直したと言います。「伝えたいこと、自分にできることがここにあるのかもしれない。この活動に関わることで料理人としての幅も広がり、結果的に店全体の成長にもつながるはずだ」と。

早速、事務局に相談し、料理人仲間に声をかけて勉強会を開催。ジャンル問わず若い世代を中心に30人ほどが集まり、海の現状を学ぶことから始めました。「以前は、減っているなら獲らない方がいいだろう、漁師に補助金を出して禁漁すれば済むのではないかと考えていましたが、そんな単純な話ではないことがわかってきました。海に関わる人たちの暮らしや地域を守り、食文化を継承していくことを考えた時、もっといろいろなやり方がありそうだと。資源調査や管理は一つの答えですよね。そして、この現状を多くの人に、できるだけ早く伝えていくことが必要で、レストランも一つのメディアとして発信していかなければいけないと思いました」。

メディアとしての役割を果たすために大切にしているのが、2カ月に一度、メニューの変更前にスタッフ全員で行う試食会です。

「サービススタッフが全員着席し、お客様と同じメニューを食べてペアリングを試す。その中で、なぜこの食材を使い、このように料理したのかを丁寧に伝えるようにしています。話を聞いて、実際に食べているからこそ、スタッフ一人ひとりが自分の言葉でお客様に伝えることができるのです。

海の問題は、小さなコミュニティできちんと広げていくことが大事だと僕は考えています。インフルエンサーの影響力も大きいけれど、信頼している身近な人の言葉が実は一番強いと思っていて。僕がスタッフに、スタッフがお客様に伝えた話が、その家族や友人、行きつけの店へと伝わっていく。少しずつでも着実に情報を拡散していけるのが、レストランというメデイアではないでしょうか」。

立ち上げから3年、勉強会にイベント、THE BLUE CAMPなど精力的に活動してきた京都チーム。今、少しずつ手応えを感じていると言います。

「最初は、SNSで発信してもあまり反応がなく、僕たちの動きをみんな遠巻きに見ている印象でした。それが1年2年と続けるうちに、本気で何かをしようとしていることが伝わっていった気がします。海の課題解決は急がなければなりません。でも、焦らず丁寧に活動を続けていくことも大切だと感じています。多くの料理人を巻き込み、いつか京都が“サステナブルな食の都”として国内外から評価されるようにしていきたいですね」。

最近では、イベントなどで顔を合わせた地方の料理人から、自分の地域でもこうした活動がしたいと相談を持ち掛けられることがあるそうです。

「巨大な組織じゃなくていい。お互いの顔がわかるくらいの小さなコミュニティが日本中にできていくといいですよね。資源管理の方法は土地土地で適したやり方があると思います。それぞれの地域で動き出していくことで、日本の海を変えていけるのではないでしょうか」。