
C-BlueメンバーインタビューVol.18は、「慈華」の田村亮介シェフです。「素材を、人を、料理を慈しむ」という思いを込めた店名通り、日本各地の生産者から仕入れた食材を、繊細かつ新しい中国料理に仕立てて提供しています。数少ない中国料理のメンバーシェフとして、この活動にどんな思いで参加しているのか聞きました。
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「昔に比べて魚が少なく、値段も高くなっているのは感じていました。気候温暖化や海外の乱獲のせいかなと思っていたのですが、まさか僕たち日本人が獲り過ぎていただなんて、考えてもみませんでした」。初めてChefs for the Blueの勉強会に参加したときの衝撃をそう語る「慈華」の田村亮介シェフ。
以来、仕入れの際には大きな魚を選んだり、シラスなどの幼魚は極力使わないようにしていると言います。「中国料理では、魚の姿蒸しなどをお頭付きで出すことが上等なおもてなしとされているのですが、2名様の来店が多いので、サイズの小さい魚を使っていました。でも未成魚を獲り続けていたら魚は減る一方です。今は、十分に成長した魚を仕入れ、切り身で喜んでいただける料理をお出しするようにしています」。
四季の移ろいを演出する上で効果的な魚卵や白子などについても、「完全に使わないところまでは行き着いていませんが、それなしでも表現できるよう替わりの食材や方法を模索しているところ」だとか。
日本産こそが最上級品とされる干し鮑も厳しい局面に立たされています。田村シェフが使っているのは、中でも「吉浜(キッピン)」の名で知られ、江戸時代から中国の皇帝に献上していたという歴史を誇る三陸産。門外不出の高い加工技術に定評があり、香港などで高値で取り引きされています。
産地では、岩手県漁協が定めている漁期(11月~翌2月)に加え、1~2月を自主禁漁期間とするなど資源保護に努めていますが、近年は海水温の上昇や磯焼けなど環境の変化が大きく、資源は減り、サイズも小さいものしか獲れなくなっていると言います。
「とはいえ」と田村シェフ、「少ないから使わない、という考え方だと本当に何も食べられなくなってしまいます。どうしたら使い続けていけるのか、考えなくてはなりません」。
魚は豊洲市場で買い付ける以外に、長崎、和歌山、神奈川、北海道の仲買からも直接仕入れています。「毎日海に行って魚を見ているからか、地方の仲買さんの方が資源の問題に対して強い危機感を持っているように感じます。その日揚がった良い魚をお任せで送ってもらいますが、魚種や大きさにも配慮して選んでくださっています」。
今後は、地域の浜でしか出回らない魚をもっと店で使っていきたいと考えているそうです。
「実は以前からチャレンジしているのですが、なかなかうまくいかなくて。調理の難しい魚を雑多に送ってもらっても、一つひとつに向き合うのに時間も労力もかかってしまい、結局スープやエキスにするしかなくなってしまいます。扱うからにはその魚が生きる料理に仕立てたい。大型の未利用魚を狙っていくといいのかもしれませんね。
自分でももっと浜に足を運ばなくてはいけません。知らない魚がたくさんありますし、情景、環境、扱っている人たちを見ると、料理する上で全然違いますから」。
Chefs for the Blueが発足して8年。素材よりも調理技術に料理人の意識が向きがちな中国料理の世界では、まだまだ賛同者が少ないと言います。「もっと仲間を増やしていきたいですね。数少ない中国料理のメンバーとして、やれることには率先して取り組んでいかなければと思っています」。