C-BlueメンバーインタビューVol.16は、「じき宮ざわ」元料理長の泉貴友さんです。独立開業準備中の今、改めて故郷の発酵文化を学び直していると言います。泉さんが発酵に注目する理由、そして新店の構想についてうかがいました。

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「和食の料理人として恥ずかしかったですね」。初めてChefs for the Blueの勉強会に参加したときのことを、そう振り返る泉貴友さん。

「これほど多く魚を扱う仕事をしていながら、何も知らず、深く考えずに使いたいものだけを使ってきてしまった。もっと知りたい、深く学びたい、そう思いました。その後も知れば知るほど勉強不足であることを感じ、学びたいという思いは増すばかりです」。

以前から、野菜でも魚でも「いただいた命を使い切る」ことを大切にしてきました。「曹洞宗の開祖、道元禅師が記した『典座教訓』には「三徳六味」という料理の心得が書かれています。米一粒も無駄にしてはいけない、“いただきます”や“もったいない”という日本人が大切にすべき心について説かれている僕のバイブルです」。

命を使い切る上で欠かせないのが「発酵」の技術。たくさん獲れて安く譲ってもらった魚や、夏場に多く出るハモの骨や内臓は塩漬けにして魚醤を作ります。

発酵は自身のルーツとも関わりがあります。泉さんは、雪深く発酵文化が盛んな滋賀県長浜市の出身。幼い頃には祖母が琵琶湖の鮒や鮎で馴れ鮨を作ってくれた思い出もあるとか。10年にわたり料理長を務めた「じき宮ざわ」を離れ、独立開業準備中の現在、改めて故郷の発酵文化について学び直しているといいます。

「文献を読んだり、祖母の友達に会いに行って郷土料理を教えてもらったりしています。僕が子どもの頃にはまだあったのに、今は食べられなくなっている料理も多いですね。作るのに手間も時間もかかりますし、ご近所付き合いが減っておすそ分けの文化がなくなったことも理由の一つかもしれません。

でも、今改めてそういったものを見直そうという流れが来ているように思うのです。便利さと引き換えに手放してしまった大切なものや、様々な課題を解決するためのヒントが隠れているからです。まさに温故知新ですよね」。

泉さんが新しく店を構えるのに選んだ場所は、京都市北区玄琢。江戸時代、医者の野間玄琢が薬草園を開き、多くの人を癒したとされる地です。「ただおいしい料理を提供するだけでなく、養生できるような場所にしたい。それでいて、お客様が味わったことのないような新しさも大事にしていきたいと思っています」。

かつて鮒ずしをはじめとする発酵食品は、保存食としてだけでなく、体の様々な不調に効く療養食としても食べられていたとか。発酵による複雑な味わいは味覚の地平を広げる可能性も秘めています。

Chefs for the Blueの活動を通じて、地元の魚をもっと使っていきたいという思いも強くなったと言います。「琵琶湖の魚についての勉強会に参加したのですが、需要の低下による販売価格の低下、後継者不足など、湖魚も多くの課題を抱えていることを知りました。滋賀県出身者として他人事とは思えなくて。これからやっていこうとしていることと結び付けられるんじゃないかと考えています」。

魚を「これからの100年につながる資源」として見るようになると、同じ価値観の人から魚を仕入れたいと思うようになったそうです。そして、その人の見つめている海をこの目で見たくなる。「実際に行ってみると、海だけでなく地域の環境が丸ごと魚に影響していることがわかります。体感して、それを踏まえて料理をしていきたいですね。郷土料理の多くに魚が使われているように、水産資源を守ることは食文化を繋いでいくことにもなると思うので」。