NEWS

Interview

メンバーインタビューVol.29 クラフタル 大土橋真也

「自然のなかで育つ貝や海藻など、給餌を必要としない水産資源をコースに入れるようにしています。だれに食べていただいても、ちゃんと説明がつきますし、僕にとっても心に負荷がかからないんです」

C-BlueメンバーインタビューVol.29は、東京・中目黒のフレンチレストラン「クラフタル」の大土橋真也シェフです。鹿児島県で生まれ育った大土橋さんは、「ジョエル・ロブション」やパリの「サチュルヌ」、「レストランアニス」などを経て、2015年に自身の店をオープンしました。料理にも、自分自身にも、まっすぐに向き合いつづける大土橋さんに、水産資源の問題への向き合い方と、料理人としてこれから目指す姿について聞きました。

「料理人はアウトプットしつづける仕事です。お店を開いて2年ほど経ち、シェフとして日々あらゆることを自分で決め、やりたいことをやり尽くしたと感じていたころ、Chefs for the Blueに出会いました」

海の問題について話が聞ける勉強会があると知り、Chefs for the Blueが設立時に開いていた深夜の勉
強会に参加しはじめたという大土橋さん。

「何かを知っていたわけでも、志が高かったわけでもありません。でも、営業後の深夜に専門家の話を聞くことができ、正しい情報を得られる機会はまずなかったので、参加するようになったんです」

若いころから「なんでですか?」が口ぐせで、探究心が強かったとそうです。しかし自身の店を持つと、だれかに「教えてほしい」とは簡単に聞けない立場になり、情報や知識をインプットする機会が減っていました。

「Chefs for the Blueの集まりで、ほかのシェフたちと情報を交換し、悩みについて意見を交わす。そう
やってたくさんのことをインプットできる時間が、僕にとってはすごく幸せでした。その思いはいまも変わりません」

大土橋さんは「僕はとてもケチなんです」と少し笑います。33歳で都内に店を開き、4人の娘さんたちを育てながら働いているからこそ、「食材を大切につかいたい」と話します。その「もったいない」という気持ちは、低利用魚、当時は未利用魚と呼ばれていた魚を積極的につかうことにもつながっていきました。

また、クラフタルではオープン時から、秋になると、木の板のように仕立てたホタテのチップスとホタテの身をつかい、「森と海の循環」を表現した一皿を提供しています。

「植物性プランクトンを食べる二枚貝のホタテや、海中のミネラルと太陽光を使って育つ海藻のように、環境への負荷が比較的少ない食材で、いま持続可能だと考えられるものは肯定的につかっています。ほかの魚介類についても、生産背景をちゃんと説明できるものを選んでいます。

でも、いまの水産資源の状況を考えると、魚をつかうこと自体が『善』とは言い切れません。フレンチの文化や食の歴史があるから魚も出していますが、正直、葛藤があります」

「水産資源の問題は受けとめるのにエネルギーがいる」と、大土橋さんは話します。それはお客さんにとっても同じです。そのため、メニューに記した漁師さんの名前や「神経締め」という言葉を読んで質問があったときには、水産資源の問題についてしっかり説明するようにしているといいます。

大土橋さんは今年、海と食の未来を担う次世代のためのプログラム「THE BLUE CAMP」で、メンターと
して学生たちに伴走しました。5カ月間の学生たちの成長を、こう振り返ります。


「学生たちは最初、純粋に消費者なのですが、それがガラッと変わる瞬間があります。自分たちでレストランを運営し、お客様に料理を出し、そこに確かな情報をのせて、対価をいただく側に立つ。そのときに、覚悟や心境の変化が生まれます。

その変化は、学生たちの言葉にもすごく生々しく表れます。人間的で、誠実で、どこか子どもらしくもあって、いろんな感情が入り混じっている。お金をいただくということは、プロフェッショナルとして責任と覚悟を持つということ。その瞬間を見られるのが、THE BLUE CAMPの素敵なところです」

THE BLUE CAMPでは、学生たちが各界の専門家による講義を受けます。大土橋さんは、『料理通信』
を創刊した君島佐和子さんの講義のなかで「だれもがメディアになり得る存在で、料理人もメディアであ
る」と聞き、心境に変化が生まれたと語ります。

「僕は確かなものがないと喋れないんです。感性と感覚だけでやる時代はもう終わっていて、自分が疑問に思っていたことを徹底的に咀嚼して、しっかりと自分の言葉で説明できるものじゃない限り、世に広く出してはいけない気がしている。料理もそうです。でも、魚のことに関しては、自分のなかで正解が出ていることや、正しい情報、自分の思いをのせて発信できるものについては、もう少し発信をしていきたいと思います」

大土橋さんには、目指す料理人としての姿があり、まだまだ挑戦を続けたいと話します。

「僕が自然に生き、自然に創造し、それが自然にとっても負荷がなく、レストランもおのずと自然と共存している。そういうことができる料理人になっていきたいです」