
「美味しいものをつくろうとすると、結果的に資源量の減少に行き当たります」
C-BlueメンバーインタビューVol.31は、東京・恵比寿の鮨店「恵比寿 えんどう」の遠藤記史さんです。18歳でイギリスへサッカー留学した遠藤さんは、海外生活のなかで日本の魚食文化の豊かさに気づき、父親と同じ鮨職人の道へと進みました。最近は、世界で一番美味しい魚を探しながら、月に一度のペースで海外を訪れ、現地の魚をつかって鮨を握っていると言います。鮨職人だからこそ実感する水産資源の問題と、「超長期」の目標について聞きました。
「鮨職人になろうとは思っていませんでした。子どもの頃から父親を見ていると、飲食業は大変そうでした。それに、魚臭いし、朝は早くて夜も遅く、長時間労働です」
そんな遠藤さんの考えを180度変えたのが、イギリスでの7年間の生活でした。サッカー選手を志して現地の体育大学で学んだあと、当時ノンリーグだったAFCウィンブルドンでプレー。海外で暮らして、食文化を比較したからこそ、鮨には揺るがない絶対的な価値があると気づいたと話します。
帰国後は、銀座「鮨 水谷」、六本木「鮨 さいとう」、広尾のイノベーティブレストラン「長谷川 稔」で経験を積み、2019年に独立して「恵比寿 えんどう」を開業。Chefs for the Blueの活動に参加したのはその前年でした。
「『シンシア』の石井真介シェフが、ウナギをつかわなくなっていたと聞き、なぜその判断にいたったのかをもっと解像度を上げて深掘りしたいと思いました。心情だけでなく、データではどうなのか。ウナギに限らず、マグロも含めて、これからどのような心構えで水産業や飲食業に携わっていけばよいのか、その答えを探したかったです」
遠藤さんは、この10年だけを見ても、水産資源の減少を実感していると言います。
「現在の状況に至った原因は一つではなく、複雑な要因が絡み合っています。『10年前はもっと大きかったのに、今は小さくなった』『10年前はもっと美味しかったのに、最近は物足りない』と思うことがあります。そこには、美味しいものをつくりたい、質の高いものが欲しいという、職人としてのエゴがあります。その思いを掘り下げていくと、結果的に資源量の減少に行き当たります」
豊かな魚食文化が長く根づいてきた日本だからこそ、水産資源問題への対策が難しくなる面もあると、遠藤さんは指摘します。あまり魚を食べてこなかった国が新たな制度をつくるのとは異なり、日本では、長い年月をかけて築かれた慣習や文化、法律、人々の間の約束事を変えなければならないからです。
店で扱う魚は、生産者から直接仕入れています。
「いい生産者は、結果的にサステナブルなことを意識しています。これは江戸時代から変わらないと思います。『獲りすぎたら、来年は獲れない』。彼らは資本主義だけで動いているのではなく、文化や伝統、商品の根本的な価値も大切にしながら日々を生きています。クリエイターなのだと思います」
遠藤さんは、Chefs for the Blueが今年6月に発売したオリジナル商品「THE BLUE DELI / ブルーデリ 大西洋クロマグロのテール煮三味」の開発に携わり、そのうちの一つ「Soy Ginger(和風時雨仕立て)」を監修しました。
「ブルーデリの特徴は、美味しさだけでなく、商品の背景まで伝えていることです。なぜ大西洋クロマグロなのか。なぜ尾の身なのか。どのような人たちが、どのような思いで獲っているのか。明確な背景があります。商品開発に携わり、その背景を消費者に伝える機会をいただけたことが非常にありがたかったです」
世界各地を訪ね、その土地の海で獲れる魚を味わってみたい。そんな思いから、遠藤さんは月に一度のペースで海外へ足を運び、現地の魚をつかって鮨を握っています。その原動力は、「もっと知りたい、もっとうまくなりたい」という好奇心。
「地球はこれだけ広いので、美味しい魚がたくさんいるはずです。ただ、いろいろな国や地域に行ってみてぼんやりと見えてきたのは、日本の魚が本当に一番うまいのではないかということです。これは願望も半分あります。でも、もし日本の魚が世界で一番美味しかったら、日本に生まれた者としてこれほど幸せなことはありません。その可能性を最大限まで確かめるためにも、世界中を旅したい。もし日本を超える魚の産地が見つかるようなことがあれば、そこで鮨店を開きたいです」
遠藤さんはいま、より長い時間軸で未来を見つめています。
「最近、超長期の目標を考えることがあります。自分が死んだあとの目標です。Chefs for the Blueの活動も結局はそこにつながるのではないでしょうか。極論すれば、自分に利益がまったく返ってこなくてもいい。自分が認められたいわけでもありません。自分がいなくなったあとも、日本の魚食文化は本当に続いていくのか。そこまで考えることをこれから10年の目標の一つにしたいです」