「料理人もただレシピを考えるだけでなく、何のために活動するのか、料理を通じて何を伝えるべきなのか、広い視野を持たなければなりません」

C-BlueメンバーインタビューVol.4は、「ファロ」の能田耕太郎シェフです。

イタリアで20年近く、現地料理界の最前線を走り続けた能田シェフが日本に戻り、始動した銀座「FARO(ファロ)」は、当初からコンセプトに“サステナブル”を掲げてきました。ですが、イタリアのスローフードの文化に親しんできた能田シェフは、日本のサステナブル・シーフードの取り組みに遅れと難しさを感じていると言います。


「イタリアでは肉をよく食べますが、実は天然の肉、つまりジビエに関しては資源管理のため、、州によってすでに禁猟措置が取られている種もあります。国民もシェフも、その状況や背景、そして必要なルールをよく理解しています。それに比べて日本は、天然の魚を獲りすぎている現状すら国民の多くが知らない。そして、自分たちがよければ世界と足並みを揃えなくてもいい、というところがあるようにも感じます」。

能田シェフは以前から、「養殖魚は(一部のナマズやソウギョ、鯉などの草食魚を除き)天然魚を飼料として育てられている。だから、多くの飼料を必要とする養殖の魚は使わない」というルールを自分の中で決めていました。ですが、それではお店に必要な量の魚を賄えない状況に。そんな悩みが深くなった時に出会ったのが、神奈川県横須賀市、長井漁協の仲買人、「さかな人」の長谷川大樹さんでした。

長谷川さんは、入札を通じて魚を仕入れ、処理のうえで顧客のレストランに卸し取引をしています。そのラインナップにはいわゆる高級魚から、未利用・低活用とされるマイナー魚もたくさん。魚に貴賤はないという自身の考えのもとに、アイゴやメジナといったマイナー魚でも漁師さんに頼んで生きたまま水揚げしてもらい、高値で買い上げたうえで神経じめを施しています。

この出会いをきっかけに、能田シェフは「FARO」で未利用魚の使用をスタートしました。長谷川さんの処理技術が高いこともあって、どの魚も思いのほか味が良く、それまで知らなかった魚種にも大きな魅力があることを学んだそうです。

なかには特有の香りが強かったり、慣れない身質の魚や小骨が多いものもありますが、そこを美味しく料理するのが料理人の仕事だと語る能田シェフ。仕入れ内容は長谷川さんにお任せのため、一種類ずついろんな魚がバラバラに来ることがあり、そんな時はテーブルごとに違う魚の違う料理が運ばれることも少なくありません。お客さまも初対面の魚に驚かれるものの、美味しいと喜んで召し上がってくださるのだそうです。

「魚を好む日本の食文化は、長い時間をかけて構築されてきたものです。本来は持続可能なバランスで生産・消費されていたはずが、今は需要と供給のバランスが狂ってしまって、増える一方の需要に供給を追いつかせようと、自然に負担をかけるようになってしまいました。そして、特定の魚種に人気が集中してしまっているために、自然への負担がいびつに、そしてより大きくなっているように感じます。ですから、今まで食べられていなかった魚種にも注目することで、海の負担を少しでも軽減できるのではないでしょうか」。

例えばトマトひとつとってもさまざまな種類があって、どれも味わいが違い、それぞれの魅力があります。なのに日本では“トマト”とひとくくりにしてしまう。魚といえばマダイが一番、鮨といえばどこの町に行っても江戸前鮨のネタを求め、地元で獲れない魚を無理に遠くから運んで食べたりする。いろんな海に囲まれた日本には本来、その地域だからこそ獲れるおいしい魚があるのだから、今こそそれを見直すべきだと能田シェフは言います。

能田シェフ自身は未利用魚に加え、MSCなどの国際認証魚も使いたいという思いがあるものの、輸入の冷凍魚が中心ということもあり、レストランで使えるクオリティの魚がほとんどないというジレンマを感じているそうです。

「MSC認証の対象となる漁法は今のところ多くないそうですが、なかでも一本釣り漁や延縄漁の魚は締め方や冷凍方法など、処理技術の向上でクオリティを上げられる余地があると思います。今ある魚をもっと良い状態で流通させることができれば、認証魚を使う飲食店もきっと増えていくでしょう」。

料理人として、素材を「使い切る」レシピを考えることは重要だが、今はさらにその先を考える段階にあるという能田シェフ。Chefs for the Blueでも、広い視野で問題を認識し活動していきたいと語ります。