6月12日(水)、Chefs for the Blue京都チームはサバをテーマに勉強会を開催。メンバーシェフ、ブルーコミュニティメンバー(https://community.chefsfortheblue.jp/about)に加え、京都・大阪の一流ホテルのシェフの皆さん約30名が参加しました。

ゲストとして、魚屋でありながら全国各地で水産業の改革に向けて取り組む「フィッシャーマンジャパン・マーケティング」の代表取締役社長でもある、津田祐樹さんをお招きし、サバの資源管理が抱える問題、私たちにできることについて、お話をいただきました。

いま、サバに起きていること

●漁獲量の変化と「小型化」の問題

「サバ」は日本の食文化になくてはならない魚です。日本の海域にはマサバとゴマサバという二種類のサバが生息しており、ともに太平洋側と日本海側に2つずつの系群(資源変動の単位となる遺伝集団。産卵場や分布域、回遊、成長などが異なる)が存在しています。ここでは理解しやすいよう、より利活用範囲が広いマサバ、そして漁獲量や知名度が最も大きい太平洋系群に絞って詳しく見ていきます(※)。

※:他の系群に関する最新データを確認したい方はこちらをどうぞ。

マサバ(太平洋系群)の漁獲尾数の推移(出典:水産研究・教育機構)
 

マサバの太平洋系群は、1990〜2000年前後に漁獲尾数が大きく減少しましたが、その後2013年頃から回復傾向にあります。

一方、いま課題となっているのは、サバの「小型化」です。サバは一般的に2歳半〜4歳で成魚となりますが、近年の漁獲では0〜1歳の未成魚の漁獲割合が増えているのです(グラフの青およびオレンジが、0-1歳の漁獲です)。

津田さんの活動拠点である石巻には、「金華サバ」というブランドがあります。石巻漁港で水揚げされるサバの中でも、身の大きさや脂のりが一定基準を満たすものを指し、一般的には一尾500グラム以上のサバが金華サバと認定されます。しかし近年、金華サバの缶詰の製造が難しくなっている現状があると言います。

石巻市水産課(水産物地方卸売市場管理事務所)の統計を基にフィッシャーマン・ジャパンが作成

グラフを見ると、近年の石巻市でのサバの水揚げ量に、一見大きな変化はありませんが、小型のサバばかりが水揚げされているため、金華サバの供給が減少しているというのです。

■「金華サバ」の現状について、詳しくはフィッシャーマンジャパン執筆のnote 記事をご覧ください

●サバから見える「海の回復力」

続いて、漁獲ではなく「資源量」の観点のお話に。資源量とは、その年の海に対象となる魚がどれだけいるかを科学的根拠に基づいて調査した結果であり、海の資源を未来につないでいくために重要なデータです。一般的に、資源量が多ければ漁獲量も増えやすい傾向にありますが、漁獲は資源量以外の条件にも左右されるため、正確には漁獲量トレンド=資源量トレンドとは言えません。そこで重要魚種に関しては、より正確な評価のために研究機関による「資源調査」が行われています。


マサバ(太平洋系群)の資源尾数の推移(出典:水産研究・教育機構)

データを見ると、太平洋沖のマサバの資源量は2000年代に減少し、その後2010年代に入ると大きく回復しています。この急回復の要因は、正確には明らかになっていませんが、「東日本大震災で三陸の漁業が大打撃を受け、同地方の漁獲量が急減したことも影響していると見られています」(前述のnoteより)。

東日本大震災があった2011年、マサバの産卵期である4〜6月にはほとんど漁が行われず、成魚の多くが産卵することができました。その年に生まれた卵は、2年後の2013年以降に成魚となり、再び産卵し、自然のサイクルが適切に繰り返されたことで、資源量が回復したと考えられているそうです。

マサバ以外でも、震災後の福島県沖で、ヒラメやカレイの資源が7-8倍になった事例も紹介されました。災害による禁漁は望ましい事例とは言えませんが、”海には本来回復力が備わっており、我々が適切に資源管理を行うことで魚は戻ってくる” という希望を示す事例ともいえます。

●1番の問題は、サバを未成魚のうちに獲ってしまうこと

津田さんは、サバを未成魚のうちに獲ってしまうことの問題点を、資源と経済の、2つの視点で説明してくれました。

【再掲】マサバ(太平洋系群)の漁獲尾数の推移(出典:水産研究・教育機構)

マサバの年齢別漁獲尾数量の推移データを見ると未成魚である0〜1歳のサバの漁獲割合が多く、直近の漁獲でも半数以上が未成魚となっています。上述の震災の例とは逆の現状が起きています。この勢いで未成魚の漁獲が増えると、サバは産卵機会を奪われ、再び資源は減少する可能性が大きくなります。

鯖の小型化には、資源減少の問題に加え、魚体の取引価格が低下するという課題もあります。小型サバは日本の料理サイズには小さすぎ、マグロなど水産養殖用の飼料として取引されることが多いのですが、価格の課題がわかりやすく表面化しているのが、輸出入です。

財務省貿易統計(輸出/輸入)を基にフィッシャーマン・ジャパンが作成
財務省貿易統計(輸出/輸入)を基にフィッシャーマン・ジャパンが作成

もともと日本は、サバの輸入超過の状態が続いていましたが、2004年頃から、サバの輸出量が急増し、輸出入量が逆転する現象が起きています。一方輸出金額は、輸出量の伸びほどには伸びておらず、金額ベースでは、輸出と輸入が同水準になってしまっています。この、サバの輸出競争力の低下について、津田さんは、以下のように危惧しています。

水揚げされた「ジャミ」と呼ばれるサバは現在、1キロあたり150円ほどで東南アジアやアフリカ諸国などの海外に輸出されています。一方、日本は国内で食べるためのサバを1キロあたり300円超で輸入しています。小さなサバを安値で海外に売り、値段が倍以上するサバをわざわざ輸入しているのです。

(フィッシャーマン・ジャパンnoteより 抜粋)

資源量が増加し、せっかく回復の兆しが見えたにも関わらず、将来の資源回復を犠牲にして、利益の少ない小さなサバを大量に売ってしまっているのが今のサバ漁獲の現状とのことでした。

● 資源的にも経済的にもサステナブルな漁業とは

水産庁の発表データを基にフィッシャーマン・ジャパンが作成

水産資源を守るため、日本政府はさまざまな魚種に対して漁獲枠(TAC制度)を設けています。TAC制度は対象とする魚種に対して、漁獲できる上限の数量を定め、漁獲量がその数量を上回らないように管理することにより、その資源を保全存、管理しようとする制度です。

ところがグラフから分かるように、サバの漁獲については、漁獲枠(TAC)に対して、実際の漁獲量が大きく下回る状況が続いています。つまり、資源が減らないように設定された漁獲量自体は、守られているにも関わらず、実際のサバの資源量は減少しているということです。

漁獲量をより厳しく制限すると獲る量が減るため、一見、不利益につながると思われがちです。しかし、津田さんは、厳しい漁獲制限が将来的にもたらす利益について、次のように前向きな意見を述べています。

厳しい漁獲枠を設定して資源管理を行なえば、漁師たちは1キロ当たりの単価が高い大型の成魚にターゲットを絞って漁をします。小さな魚をたくさん獲っても単価が低く、利幅が薄いからです。

大きな成魚だけを獲れば、成長途中の幼魚は海に残る、幼魚はやがて成魚となって産卵し、子孫を残してくれる。したがって資源量は長期にわたって維持できるようになる。一方、十分成長した質のよい魚だけが出回れば、その魚種の市場価格は高値で安定する。そうすれば漁師たちは安心して「節度ある漁業」に勤しむ――。

資源管理の強化によって、こうした好循環を生み出すことが可能です。

(フィッシャーマン・ジャパンnoteより 抜粋)

私たちにできることとは

●立場によって異なる現場の声、私たちに何ができるのか

フィッシャーマン・ジャパンとして、石巻のみならず、全国の漁業者支援や漁村振興に携わってきた、津田さん。訪れる先々で、現地の方と会話を重ね、異なる立場のさまざまな声に耳を傾けています。

各地で現場の声を聞いてきた津田さんが、未来の水産業にかける思いは、とても明確なものでした。

「漁獲量を制限すれば資源は回復するが、漁業者、加工業者、輸入商社それぞれに一時的な痛みを伴い、誰がどのくらい困るのかは制限次第で変わります。その中で私たちができることは、ルール作りを一部の人に任せるのではなく、漁業者や消費者といった国民全体が、『どうやったら皆が儲かる水産業をつくれるのか』を皆でポジティブに話し合う『場』を作ることです。」

異なる立場が集まって話し、アクションを起こすことで、水産業の未来は変わっていく。そんな熱いメッセージをいただきました。

●第一に環境を守ることで、漁業の経済は安定する

津田さんのお話を受け、Chefs for the Blue代表の佐々木からも改めて、環境を守り、資源管理を行うことの重要性が強調されました。

立場によって、異なる主張があるのは当然です。しかし、SDGsのウェディングケーキモデルを水産業に当てはめると、社会に属する漁業者、加工業者、輸入商社、消費者の利益は環境の安定なしには語れません。そして、社会の上に成り立つ経済の安定もまた、健全な環境が維持されなければ、成り立ちません。

「環境保全と漁業者の生活のどっちが大事なのか、という議論自体がちぐはぐなんです。海の環境を守ってこそ、漁村や地域社会が守られ、そのうえで漁業者の生活や収入も向上します。漁業の経済的安定のために、環境を守る、このことを国をあげて共有していかないといけないと思います。」

佐々木の熱い言葉を受け、参加者のまなざしも一段と熱くなったように感じます。

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資源管理や、サステナブルシーフードの普及においては、一筋縄ではいかないことも多いですが、料理人として、ホテル関係者として、外食産業者として、消費者として、それぞれにできるアクションがあると、改めて考えさせていただく時間となりました。
「異なる立場の人が、水産業の未来について前向きに話合える場をつくる」 という津田さんの熱いメッセージを受けとめ、我々も改めて、水産業の未来に向けた学びの場づくりに取り組んでいきたいと思います。