「正しい知識を得ることで、見える景色が変わってくる」

C-BlueインタビューVo.11は「Restaurant MOTOÏ」の前田元シェフです。2021年の京都チーム発足当初は、日本の水産の未来に絶望していたという前田シェフも、次第に海の回復力の高さに希望を見出し始めたと言います。今、どんな思いでこの問題に向き合っているのか話を聞きました。


2012年に「MOTOÏ」をオープンするにあたり、ひと月程、京都中央卸売市場に通い詰めたという前田元シェフ。「その中で一番変わった魚を置いていたのが、今も取引をさせてもらっているシーフーズ大谷さんです」。「シーフーズ大谷」は江戸時代から続く卸商で、セリで落とした魚以外にも、日本各地の漁港から直接仕入れた魚を多く扱っています。

「京都は和食のお店が多いので、市場で売られている魚種にも偏りがあります。でも大谷さんは、京都では値がつきにくいマイナーな魚でも地方からどんどん引っ張ってきます。僕はおいしければどんな魚でも使っていきたい。それに多少クセのある魚でも手間や技術でおいしくできるのがフランス料理だと思うのです」。

野菜に関しても「一番良いものにこだわらない」と言います。週に3日ほど、自ら生産者の畑まで野菜を引き取りに行く前田さん。すると、日々変化する畑の様子がよくわかるそうです。たとえば大根も、根っこが白くみずみずしいのは、成長過程のほんの一時。その後は、花を咲かせ実をつけるためにトウが立ってきます。もはや売り物にはなりませんが、そんな大根の存在を知ると、前田さんはすすんで買い取ると言います。

「トウが立っても、花が咲いても工夫すれば料理に使えますし、その後にできるサヤ大根もおいしいんですよ。その時その時の大根の味があって、それを使いこなすのが料理人の技量だと思っています」。

食材を無駄なく使い切ることへの意識も年々強くなっているそう。以前から魚のアラは焼いてからだしを取っていましたが、最近は、その後に残った身も丁寧にかき出して野菜のファルス(詰め物)などにしています。鱗は素揚げし、魚の浮袋やレバーも刻んで炒めてソースにするなど、ほとんど捨てるところがありません。

魚に限らず、食材の今まで捨てていた部分にはまだまだ魅力が隠れているはず。それを見つけて料理に落とし込んでいきたいと思っています」。

Chefs for the Blueの京都チームが発足したのは2021年。初めての勉強会では「谷底に突き落とされるくらいショックを受けた」と言います。

「日本の水産に全く未来を感じられませんでした。でもいろんな方の話を聞いていくうちに、海の回復力の高さを知ったんです。山は一度切り開いてしまうと再生するまでに何十年とかかりますが、海は数年単位でみるみる回復する。母なる海の力を感じましたね。

そして、すぐにでもアクションを起こさなければ手遅れになると思いました。アクションと言っても、今後一切獲るのをやめて保護し続けるわけではありません。少しの間、我慢すればまた使えるようになる。そういった正しい知識を共有することが今、本当に必要だと思います。

漁港や市場に行っても、海の問題について知っているかどうかで見えてくる景色はまるで違います。まずは知ることが大事。知らないと何も始まりません」。

昨年のTHE BLUE CAMPでは、学生たちの学びに伴走するメンターとして参加。その中で「自分のレンズが曇っている」のを感じたと言います。

「僕たちはどうしても日々の暮らしやビジネスを優先してしまいますが、彼らはもっとストレートにこの問題に向き合っていました。今、満足することより、未来のために自分たちに何ができるか考えて動いている。未来は明るい、と希望を感じましたね。

同時に、この子たちに頼っていてはダメだと思いました。もう一度豊かな海を取り戻すことは、海の資源を好き放題使ってきた僕たち世代が負うべき贖罪ではないかと思うのです」。

そのためにも、メンバーを増やして京都チームを盛り上げていきたいと考えている前田さん。「特に和食の方たちに加わっていただきたいですね。日本人は昔から魚を上手に使ってきた民族ですし、和食はほぼ野菜と魚で構成されています。老舗を中心に、ここ京都から海の問題についてもっと声をあげていければ、世界に向けて強いメッセージになるはずです」。