6月某日、メンバーシェフとともに、千葉県外房地域(御宿町、勝浦市、鴨川市)の小型漁船漁業を営む漁業者によって組織された千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合さんを訪問し、キンメダイの資源管理の取り組みについて教えていただきました。


千葉県はいかにしてキンメダイ漁獲日本一になったのか

上のグラフは、主要地域のキンメダイの漁獲実績です。長らく日本一の漁獲をしていたのは、グラフ青色の静岡県。一方の千葉県(グラフの赤色部分)は、多少の増減はあるものの、安定した漁獲量を維持し続け、他県が軒並み漁獲を減らしていく中、2018 年には、日本一となりました。

日本一となったカギは「獲らない努力」。

外房地域の漁師の皆さんは、長年にわたり「獲らない努力」を重ねることでキンメダイの資源を守り抜いてきました。

最初にこの言葉を聞いた時は、「獲らない努力」による「日本一の漁獲量」という、一見矛盾した事実に耳を疑ったものです。しかし、地域一丸となって取り組む、徹底した資源管理のお話を聞くうちに、その言葉に合点。国によるTAC導入という資源管理手法に加え、各地域や漁業者が自主的に行う資源管理の意義を改めて学ぶ機会となりました。

ちなみに、勝浦のキンメダイの漁場は「キンメ場」と呼ばれています。キンメ場には、東西に大陸棚(海岸から海に向かって緩やかに傾斜して広がる、海底の部分で、推進200m程度と比較的浅い)が走っており、主な漁場は大陸棚の南側。北側の浅い海は、小さなキンメを保護するために、周年禁漁区とする仕組みもあるそうです。

出典: 千葉県立中央博物館 分館 「千葉県勝浦沖 キンメ場の魚」より

なお、キンメダイは、現状ではTACの対象魚種ではありません。
(※TAC [Total Allowable Catch]:特定の魚種に対して年間で漁獲できる量の上限を設定する仕組み)

つまり、国の制度としてではなく、各地域それぞれが自主的な資源管理を行っています。そうした中で、外房地域では徹底した取り組みを続け、安定的な漁獲量を維持してきました

周辺県や地域ではより多くの量を漁獲していたり、全体的な資源量が減少し漁業の先行きも不安という中で、「今の生活のためには、仕方ない。目の前に資源はあるのだし、獲れるだけ獲ろう」という思いはなかったのかとおうかがいすると、

「先代たちが続けてきた努力のおかげで、今私たちは漁業ができているんです。私たちも、孫の代までキンメダイを守るのは、当然のことです。」

そう、話してくれた組合の皆さん。その真っすぐな思いと眼差しに、自分の質問が少し恥ずかしくなるほどでした。


キンメダイを未来に残すための資源管理

それではここから、日本一の漁獲量に至るまで、外房の漁師たちが続けてきた「獲らない努力」の軌跡を皆さんと辿っていきたいと思います。

日本では、主に「インプットコントロール」・「テクニカルコントロール」・「アウトプットコントロール」の3つの方法で資源管理が行われています。(3つの手法には重複する分野もあります)

そのうち、千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合の皆さんは、①インプットコントロール ②テクニカルコントロールを中心に、キンメダイの資源を守ってきました。

「獲らない努力」 ①インプットコントロール 

(1)操業時間の徹底
漁を行う操業時間については、漁獲量の数値と照らし合わせながら、徹底した管理を行ってきました。1990年代前半には、1日8時間の操業を行っていましたが、まずは、6.5時間に短縮。その後、漁獲量が下がる度に議論を行い、6時間→5時間→4時間 と操業時間の短縮を皆で決定してきました。

現在の操業時間は、「4時間」。この時間を1分でも超えて漁獲をしてしまうと、罰金という制限もあるのだそう。

(2)禁漁期間の徹底

定められた操業期間は、10月1日〜翌年6月30日まで。
キンメダイの産卵期にあたる7〜9月には、自主的な禁漁期間を設けています。
これもまた、未来にいかに資源を残していくかを船団の皆さんが考えた結果の自主的なルールです。

この3か月間は、漁獲を行わず、キンメダイに卵を産む期間(産休)を与え、資源回復を図ります。禁漁期間中には、部会員の皆さんはイセエビやアワビ漁など他の漁業で生計を立てているのだそう。

「獲らない努力」 ②テクニカルコントロール

(1)漁法の限定
キンメ部会の皆さんが行うのは、「たて縄漁法」のみ。1本の道糸の先に1.6m 感覚で枝縄と釣針をつけ、一番下には、2〜3㎏の重りをつけた仕掛けです。魚群探知機で反応があった地点で、釣針を下ろし、海底にはわせるように、450m付近まで沈めます。

朝一番、1回目の投入は150針まで、2回目以降は50針までと、投入する針の数を管理し獲りすぎない工夫をしています。

キンメ漁にはこのほかに、伝統的な「たる流し漁法」と呼ばれる漁法があります。この漁法は50本ほどの枝糸を付けた木製の樽を潮流に沿って複数流し、釣り糸を下ろす漁法で、一度に多数の釣針を下ろせるため、効率のよい漁法です。キンメ部会では、この「たる流し漁法」や「地獄縄」(=枝縄に2個以上の釣針をつける漁法)などの、効率のよい漁法は全て禁止し、獲りすぎない漁業を徹底して行っています。

(2)25㎝以下のキンメダイの再放流
漁獲したキンメダイのうち、25㎝以下のものは、再放流しています。以前は、再放流の基準を22㎝以下としていたそうですが、資源量や漁獲実績と照らし合わせて、25㎝以下まで基準を引き上げました。

釣針の制限や操業日数の制限で、漁獲のチャンスが限られる中、せっかく獲れたキンメダイを放流してしまうことは、一見チャンスロスのようにも思えます。しかし、この取り組みは、外房のキンメダイの価値を高めることにも一役買っています。
700g以上のキンメダイは「外房つりきんめ鯛」のブランドを冠して販売することができます。そのため、サイズの小さなキンメダイを獲らないことは、資源を持続させるだけでなく、外房のキンメダイのブランドを守り続けることにもつながるのです。

(3)獲れすぎる餌は禁止

釣り餌は、短冊切りにしたイカを赤く染めたものを主に使用しており、「イワシ」「サンマ」「イカの脂漬け」の使用は禁止しています。その理由は、それらの餌を使うと、キンメダイが「よく釣れる」から。何かと「効率化」が叫ばれる現代において、「効率の良い」漁業を徹底的に禁止し、「獲らない」ではなく、「獲りすぎない」工夫を自主的に続けてきました。

「次世代のために外房のキンメを残す努力をするのは、特別なことじゃなく我々の責任」と明るく話してくださった、前組合長の鈴木さん。「責任」という言葉の重みと余韻がずっしりと残りました。
(上段 左から三番目が前組合長の鈴木さん)


全船団が納得するまで話し合う~沿岸組合の操業ルール~

これまで説明してきた資源管理の努力は、漁師個人ではなく地域が一丸となって進める必要があります。

千葉県沿岸小型漁船漁業協同組合は、昭和41年に発足し、現在16船団が所属しています。(2022年1月時点)操業ルールを決める際には、まず、16船団が各船団で意見をまとめ、代表者会議にかけるそう。その際、1船団でも反対があれば、全員が納得の行くまで話し合いを重ね、決して多数決でルールを決めることはしないのだそうです。このルールは、昭和44年から、50年以上にもわたって続いているものです。

決定権のある人が結論を下すのではなく、メンバー全員の意見を取り入れるという姿勢は、組合員が集まる際の、「自己紹介」にも現れているそう。会議、忘年会などなど、組合員が多数集まる場は、何十人いても必ず、全員の自己紹介から始めるのだそうで、それによって1人1人が平等に意見を持ち寄る場づくりをしているそうです。

お招きいただいたこの日は、我々もその輪に混ぜていただき、1人1人自己紹介をさせていただきました。自分の番が回ってくるまでは、少々緊張していましたが、皆が同じように、自分について伝えるというこの時間のおかげで、後の会話もとても和やかに進められた気がします。


資源管理へのデータ採取 ~40年にもわたる自主的標識放流の取り組み~

上記の努力削減に加え、キンメダイの生態を調査するため、40年にわたって自主的な標識放流も行っています。
漁獲したキンメダイに標識を打ち放流し、再度捕獲された際に場所や大きさなどのデータを獲り、放流時のデータを照らし合わせます。放流が開始された1983年からの総放流尾数は23000匹を超え(2018年時点)、そのうち再度捕獲された尾数は約480尾(再捕率2.1%)だそう。このような取り組みにより、知られざるキンメダイの生態が明らかとなり、キンメダイを次世代に残していくヒントが見つかることを我々も楽しみにしています。

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今回の訪問を通じて、「獲らない努力で日本一」という言葉が持つ深い意味を改めて理解でき
ました。外房の漁師の皆さんは、先代が繋いできた資源と知恵を享受するだけでなく、未来の世代に残していくための努力を続けてきたのです。

「孫の代までキンメダイを残す」という目的のために、必要な量だけを獲り、適切な価値をつけていくことで、海の資源も漁師の生活も守ってきた、「獲らない努力」の成果は、「100年後の豊かな海と食文化」への1つの希望だと思います。変わり続ける海の現状の中で、何を残していけるのか、我々チームも改めて考え、できることを実行し続けていきたいです。