
C-BlueメンバーインタビューVol.19は、「Sincère(シンシア)」の石井真介シェフです。「嘘偽りない・誠実な」という意味を持つ店名通り、四季を感じる食材を全国から厳選し、それを食べ手に繋げることを意識しているそうです。Chefs for the Blueスタート時から深く関わり、理事も務める石井シェフに、8年間の学びを振り返っていただきました。
「Chefs for the Blueの勉強会をする前には、水産資源についての問題は料理人がかかわることではないという意識がありました」と振り返るのは、「シンシア」の石井真介シェフ。前店の「バカール」シェフ時代から、魚の価格が上がり、手に入らない魚が増えてきていると感じ始めていたと話します。
「シンシア」オープンから1年が経った2017年、(現代表の)佐々木ひろこ氏からの提案で、石井さんと仲間のシェフたち30人は、深夜に集まり勉強会をスタートします。「全世界的に魚が減っているのではなく、日本だけが漁獲量が減っているグラフを見て、衝撃を受けました。『じゃあ自分たちはどうしたらいいのか?』という問いには答えが出ず、モヤモヤを抱えたまま仲間たちと討論を重ねました」。
その中で、サステナブルな漁業で獲られた魚であることを示す認証魚や、未利用・低利用魚を使うという選択肢が浮かんできたといいます。しかし実際は、冷凍や養殖の輸入魚が多く、高級店では使いにくい現実も。「理屈ではわかるけど、自分の店で出せるものがない」ジレンマがありました。
一方、勉強を通して「知ること」が行動を変える原点になると実感した、と石井さん。「レストランのあり方を考えていた時期でもあったのですが、ここでの学びが大きく影響しました。実際に、ウナギやマグロを使うことをやめる決断もしました」。
2020年には、ASC認証やMSC認証の魚を使うことを掲げた期間限定のカジュアルレストラン「シンシアブルー」をオープン。クラウドファンディングで約500万円を集め、持続可能な魚の流通や調理の可能性を探りました。「おいしくて環境にもやさしい。その両立ができるのかを確かめたかった」。
実際に取り組んでみると、認証魚の調達には想像以上の課題があったといいます。販売側の商品リストには載っているものの、入荷頻度が少ないため魚が実際には手に入らなかったり、販売量の単位が大きすぎて店舗のキャパシティでは扱えなかったり。輸入業者も、需要が少なければ仕入れない。「需要がないから流通しない。流通しないから使えない」という悪循環にも直面しました。特にMSC認証については、メニューへのロゴ掲載義務や定期的な監査、冷凍庫・冷蔵庫内の商品管理ルールなど、細かく厳しい運用が求められています。認証を取っても売上に直結しない現実もありました。「とてもよい経験になりました。仲間のシェフたちにその経験をシェアできたことも、僕にとっては価値がありました」。現在は、食材ごとに仕入れ先を細かく分け、全国各地の生産者や魚屋から直送で仕入れています。
かつては「学ぶ場」だったChefs for the Blue の活動ですが、8年間続けてきた今は「発信する・伝える」方向にシフトしている、と言います。
「最近、仲間とは『具体的なゴールを設定しなくてもいいんじゃないか』という話をしています。何年までに魚を何%増やすというのをゴールに定めるのではなくて、目の前の問題に取り組み、知って伝えていくことが本質的なんじゃないか、って。僕たちの世代だけで解決できる問題ではなく、若い世代につなぐ必要があるんです」
2025年6月8日の世界海洋デーに合わせて、Chefs for the Blueは食の祭典「ブルーフェス」を開催します。「ずっとやりたかったイベントです。僕たち料理人が一番得意なのは、やっぱり料理を作ることだから。料理で楽しく伝えていきたいです」。