
C-BlueメンバーインタビューVol.21は、「CHOMPOO(チョンプー)」の森枝 幹(かん)さんです。オーストラリアの和食店「Tetsuya’s」からキャリアをスタートし、帰国後も料理表現だけに留まらず、雑誌の編集に携わったり、人気店のプロデュースをするなど幅広く活躍しています。サステナブルな水産資源の課題に対し、料理人として早くから問題意識を持ち、行動してきたひとりである森枝さんに、シェフス・フォー・ザ・ブルーならではの表現について語っていただきました。
ジャーナリストで写真家の父を持つ森枝幹さんは、幼い頃から世界中の食文化に触れて育ちました。料理人としても、型にとらわれない発想と行動力で、早くから水産資源の課題に向き合ってきました。
2014年に東京・代々木上原で開業した「サーモン・アンド・トラウト」では、ブラックバスやブルーギルといった“未利用魚”を積極的に取り入れるという、当時としては画期的なコンセプトを打ち出しました。
「ブラックバス以前にも、ヌタウナギなどいろいろな未利用魚を使っていたんです。でも、匂いや食感にクセがあって、人気が出にくい理由もあるなと。ただ、ブラックバスは美味しい白身魚として使えるという手応えがあった。調べてみると、1960年代には琵琶湖で食料危機への備えとして養殖実験が行われていたという背景も知って、そういうストーリーが僕にとってはすごく面白かったんです」
こうした背景もあり、森枝さんはChefs for the Blueにも設立時から深く関わってきました。ちょうど同時期には、雑誌『RiCE』の創刊や、サステナブルな食材を使った社員食堂兼レストラン「UB1 TABLE」のプロデュースなど、多方面での情報発信にも取り組んでいました。
「“これが正しい”“これが一番うまい”といった極端な主張を大きな声で言うのは、あまり好きじゃないんです。伝え方にしても、常に多角的な視点を大事にしてきました。サステナブルって本当はとても複雑なテーマ。だからこそ、“真面目にふざける”くらいがちょうどいい」
水産資源の問題を語るとき、“正論”をまっすぐ押し出すことには、少し照れもあると森枝さんは言います。重たく伝えすぎると、相手にとってはストレスにもなりかねない。だからこそ、ユーモアやポップなビジュアルを使って伝えることを意識しているのだとか。
「深刻な話って、聞いている方もつらくなるじゃないですか。だったらちょっとふざけて見せるくらいが、ちょうどいいんです。自分の役割は、真面目にふざけることなんだと思っています」
その“ふざけ方”には、いつも深い意図が込められています。
たとえば2019年、Chefs for the BlueがTポイント・ジャパンとともに開催した「未来の海のレストラン」では、五島列島の魚を使った料理の背景を紙芝居仕立てで紹介しました。このユニークな演出も、森枝さんのアイデアによるものです。
2025年6月に行われた「ブルーフェス」では、国内のトップシェフ32名がサステナブル・シーフードをテーマに集結。森枝さんは唯一のデザートとして、「マグロのおすしみたいなやつ」というひと皿を提供しました。
セミドライにしたスイカをマグロがわりにし、ココナッツミルクで炊いた餅米で握り、まるでマグロ寿司のように見えるという遊び心あふれる一品です。肝心の魚は、スイカと餅米の間に挟まれた、スズキで作った“デンブ”。見た目のインパクトと予想を裏切る味わいに、ゲストからは笑顔がこぼれていました。
「サステナブルという言葉が空回りしないように、もっと柔らかく伝えていきたい。そうすれば、若い世代とも共感し合える気がするんです」
現在、森枝さんは活動の場をタイにも広げている最中です。アジア各国の漁業の現場と向き合いながら、その経験をChefs for the Blueの活動にも還元していきたいと語ります。
「今、メンバーは東京や京都のトップシェフに集中していて、ちょっとハードルが高く感じている人たちもいると思うんです。だからこそ、もっと若い世代や、地方で日々魚と向き合っている料理人たちとつながれるような体制を作っていけたらいいですね」