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メンバーインタビューVol.22 アムール 後藤祐輔

C-BlueメンバーインタビューVol.22は、「アムール」の後藤祐輔さんです。後藤さんは二度の渡仏修業を経験し、国内では「レカン」「オトワレストラン」で正統派の技術を徹底的に磨いてきました。2012年に西麻布に「アムール」のシェフに就任し、16年に恵比寿へ移転。フランス料理の技術と精神を軸に、日本の食材を生かした“日本人にしか表現できないフランス料理”を提供してきました。近海の魚介をふんだんに使うコースが特徴でしたが、今年に入って大きな方向転換を試みているそうです。シェフス・フォー・ザ・ブルーでの学びと、自身の料理観の変化について伺いました。


恵比寿「アムール」のコース料理は、近海の魚介を存分に使い、日本料理的な要素も積極的に取り入れる構成が特徴です。10皿前後のうち7〜8割に魚介が登場し、それこそが後藤シェフの真骨頂と評判でした。
ところが、今年から「コースで使う魚の皿を1〜2品に減らした」といいます。「いくつか理由があり、試験的に抑えています」と静かに話します。

背景には、Chefs for the Blueでの学びがありました。きっかけは創設から数年後、渋谷でのトークイベントに参加したこと。
「当時はまったく知識がなく、メンバーが共有している基本的なことすらわからず、話についていくのがやっとでした。自分で調べながら必死に追いつこうとしていましたね」
その後、勉強会に参加して知識を積み重ねていきました。「一人では何もできない。でも集まれば広められる」。まず料理人が理解し、それをゲストや仲間に伝えることから始めようという姿勢が定まっていきました。

学びは料理にも直結します。小型魚や魚卵の使用を控える、サイズに気をつけるなどの調整に加え、直近1〜2か月は思い切って魚料理を減らしました。理由はいくつかあります。

第一に資源の状況です。「数が少ないなら、寿司や和食の文化を守るためにそちらを優先してほしいと思います」。
第二に価格の高騰。ホタテはかつての数倍に跳ね上がり、魚介全般の原価がコースを圧迫するようになりました。
第三にフランス料理としての立ち位置。直近のフランス訪問で、魚料理が必須ではないコースを多く目にし、肉や野菜だけでも十分に世界観を描けると確信したといいます。

さらに魚は扱いの難しさとオペレーション負荷が大きい。「納得いかないなら出さない方がいい」。締めや寝かせなど、仕立てから提供までを一皿で完結させる管理は高度です。安定供給が揺らぐ今、無理を重ねるより質で勝負しようと考えました。

一方で、養殖の可能性にも注目しています。大分の養殖フグを使った際には、サイズや価格が安定し、原価も計算しやすいことを実感。アユの養殖にも挑戦しています。「刺身で勝負しないフレンチなら、火入れとソースで十分に魅力を引き出せます」。

Chefs for the Blueでの取り組みも続きます。2019年には離島経済新聞社と連携し、アイゴやテングハギなど未利用魚を使ったレトルトスープを開発。日比谷音楽祭では仲間とともに弁当を提供し、一般のお客さんに直接活動を伝えました。水産庁への提言書を提出して以降は注目が高まり、豊洲の仲卸から声をかけられることも増えました。「敵じゃない、と率直に伝えます。このままではあなたたちの仕事も危ういかもしれない、と」。対話の機会は確実に広がっています。

今後は現場の視察を重ね、漁師や仲卸の実情と自分たちの理解をすり合わせたいと考えています。「現場の実態がわかる調査をもっと進めてほしい」。店では無理なく、魚介を見極めながら使い続けるつもりです。「全員が少しずつ意識すれば良くなる。良くなった時には思う存分使いたい」。

正統派の基礎に日本の感性を重ねてきた料理人が、海のいまを見据えてメニューを更新する。魚の皿が減っても、旨さの芯は揺らがない。後藤シェフの皿は、学びと選択の積み重ねで、さらにフランス料理らしく、そして「アムール」らしくなっています。