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代表 佐々木ひろこの記事が、SEAFOOD LEGACY TIMES 5th に掲載されました。

SEAFOOD LEGACY TIMES 5thの【連載シリーズ これからの日本の水産資源管理を考える】第3回で代表 佐々木ひろこの記事が掲載されています。

全文はこちらになります。

【シリーズ これからの日本の水産資源管理を考える】第3回は、一般社団法人Chefs for the Blue 代表理事の佐々木ひろこさんに寄稿いただきました。食の現場に立つシェフが感じている危機感、解決のためにシェフと共に取り組む、持続可能な資源管理のためのアクションにご注目ください。

 私は長年にわたり、さまざまなメディアに記事を寄稿してきたフードジャーナリストです。一次産業の現場取材も多々あったなか、なぜか海だけは接点がなかったのですが、およそ10年前、水産業に半年間じっくりと向き合う機会に恵まれました。

 そこで直面したのが、海の危機的な状況でした。激減を続ける漁獲量、わずかしか魚が並ばない水揚げ港のセリ場、どの浜を訪れても暗い表情の漁業者たち、以前に比べ圧倒的に小型化した豊洲市場の魚。言葉にならないほどの衝撃を受けました。海から明らかに魚が減っていることを実感する一方で、一般の人々の会話にもメディアにも、海の話題が取り上げられる機会はほとんどありません。このままだと誰も気づかないうちに、魚が食卓から消える未来が来てしまう、と背筋が寒くなりました。

 なんとか現状を変えたいと、2017年、友人のシェフたちと一緒に立ち上げたのが「Chefs for the Blue」です。東京と京都のチームメンバーは、様々なジャンルから集まったトップシェフ45名。「まずは知ること」と勉強会を重ねたのち、徐々にイベント等を開催することで、現状を「伝える」活動にシフトしていきました。

 日本で前例のない「社会課題解決を目標に集ったシェフチーム」の活動は、実は当初、多くの人から「料理人にできることなんかない」「どうせ続かない」と一蹴されるばかりでした。それなのにその後、なぜ8年以上も続いているのか、なぜ活動が着実に拡大し、シェフの参加希望が絶えないのかといえば、おそらく答えはただひとつ、水産物が日本の料理界にとって、本当に大切な食材だからでしょう。シェフたちが日本の魚の価値を誰よりも深く理解し、心から誇りに思い、なんとしても未来に繋ぎたいと本気で思っているからです。

飲食業界に広がる大きな危機感

 活動開始後の2020年、70年ぶりに改正され、「持続性」が明文化された漁業法が施行されました。そして科学的根拠に基づいた資源管理の目標設定、資源維持回復を目指した新たな資源管理システムの構築が発表されました。当然のことながら、私たちは「これできっと危機を脱するはず」と大喜びしたのですが、残念ながらその後約5年が経った今、改善の兆しはまだ見えていません。漁獲量はもちろん、多くの魚の資源量も依然、減り続けています。

 2025年6月、Chefs for the Blueは全国の飲食事業者を対象に、水産物調達の現状を調べるためのアンケート調査を行いました。15日間という短期間実施だったにもかかわらず、集まった回答はすべて記名で1,300件。結果の一部をご紹介すると、たとえば10年前に比べ、水産物の市場流通量が変わったかを問う質問には、95.2%が「とても減った」「減った」との回答でした。野菜や肉、乳製品など、他食材に比べての調達の現状を問う質問には、73%が「問題はとても大きい」「問題は大きい」。水産物の調達の今後について問う質問には、98.1%が「危機感がとても大きい」「危機感が少しある」との回答がありました。水産物調達の現状や未来について、飲食業界が抱える不安と焦燥を如実に伝えるアンケート結果だったと言えるでしょう。なお、このアンケートで最も多かった回答者は、26.9%を占めた鮨店、次が18.1%の日本料理店でした。そしてより海に近い、地方飲食店の回答が想定よりもずっと多かったことにも驚きました。現在彼らが抱えている危機感の大きさは、すなわち、私たち日本人に迫る食文化存亡への危機感と重なります。

 多様な魚種と多様な個性、それらを獲る経験を重ねた漁業者、的確な処理で魚の価値を上ることができる職人、発達したコールドチェーン、そしてその魚を調理加工する洗練された技術という奇跡のような連関が形づくられ、歴史を重ねてきた成果が今、日本が誇る魚食文化です。2024年に8兆円を超えたインバウンド消費主体のうち、83.2%の外国人が「日本食を食べること」を期待して訪日している※ことからも、経済上の貢献度を含めたその価値の大きさが測れるはずです。そしてもし魚が海から消えてしまえば、この仕組みそのものが崩壊し、一度壊れたものを元に戻すことが困難であることは明白です。

※観光庁「訪日外国人の消費動向2023年1-3月期報告書」図表6-1, 6-2より

全国飲食店アンケートのサマリーはこちら

政府へ、生活者へ、飲食業界へ、そして次世代へ

私たちChefs for the Blueは現在、4つの活動軸をもって日々動いています。

一つ目は、政府に対するアクション。2024年6月、料理界初となる水産庁長官への提言書を提出し、今年6月には小泉農林水産大臣に対しても手交、意見交換を行いました。水産改革から5年以上経った今も、海の状況改善が見られないことに対する課題感から、その解決に向けた第一歩として、まず資源調査・評価・管理のための体制強化を行うことを提言の一番目に置きました。またマアジやマサバ・ゴマサバなど多獲性魚種に偏ったTAC(漁獲可能量制度)の設定の現状から、これまで力を入れてこられなかった少量多種の沿岸魚種について、資源管理手法の改善・推進を訴えました。マアナゴ、マダコ、アオリイカ、カワハギ、アサリ、ハタ類をはじめ、多種多様な沿岸魚種の存在が、加工業や観光業等をはじめとした各地の地域経済を支えるとともに、各地の食文化をかたちつくってきたからです。

2つ目の軸は、生活者に対するアクションです。これは私たちが得意としてきた分野で、たとえば水族館の水槽前で開催するディナーなど、大小さまざまなイベントを開催することで多くの方々に現状を知っていただき、資源管理の重要性を伝える機会をつくっています。

 3つ目の軸は、飲食業界に向けたアクションです。2年前にオンライン上のコミュニティ、”the Blue community”を立ち上げ、現在全国約350名のメンバーに、水産業の現状や今後に向けた課題等を伝え、意見を交わし、ともに未来を考えるプラットフォームとして運営しています。漁場へのフィールドワークや勉強会も頻繁に開催しており、参加メンバーの海への情熱に驚かされることが多々あります。

    そして4つ目の軸が、次世代に対するアクションです。水産業の未来を真剣に考える次世代を育てることを目的に、大学生・専門学生を対象とした3ヶ月(今年度から5ヶ月)の人材育成プログラム、”the Blue camp”を運営しています。政治、経済、栄養、教育、水産、調理、情報など、選抜された学生の専攻はさまざまで、多様な知識や思考を持つ仲間とともに今の海を見つめ、未来への道筋を考え抜いた学生たちは、プログラム卒業後もいわばChefs for the Blueのユースチームとして、積極的な活動を展開しています。

農林水産大臣・水産庁長官への提言書提出の様子と提言書の全文はこちら

サステナアワード2024で農林水産大臣賞を受賞した”the Blue camp”の映像はこちら

社会は確実に変わりはじめている

日本の海の現状は、残念ながら10年前に私が出会った頃よりさらに危機的です。資源管理が改革当初の想定ほど進んでいないことに加え、気候変動が加速し、海洋環境が悪化し、諸外国との折衝も難化しています。一方で、メディアを含む社会は確実に変わってきたことを感じます。同じ志のもとにある人々が各所で可視化され、仲間が増え、水産業のステークホルダーも徐々に変わりはじめています。私の絶望感は、10年前と同じではありません。

 日本の魚の価値を知る食のプロフェッショナルチームとして、日本のすばらしい食文化を未来につなぎたい。魚を「守りながら食べ続ける」ために今できることがあるのなら、全力でやりたい。それが、チームのシェフたちの思いです。力強い仲間である彼らとともに、これからもChefs for the Blueらしい活動を続けていきます。

33名のシェフが渾身の魚介料理を260名のゲストに振る舞ったイベント、ブルーフェス。2025年6月に開催。(撮影:宮本信義)

連載記事のリンクはこちらです。https://times.seafoodlegacy.com/fish_stockmanagement_3/