「豊かさや贅沢さ、おいしさの指標は時代とともに変化すると思うんです。

高品質の食材が枯渇して安定的に入手できなくなってきた時代になりました。 今後は食材の力に頼った料理を提供する事は難しく、料理人に技術やアイデアが求められる時代になるはずです」

C-BlueメンバーインタビューVol.1は、16年連続でミシュラン三ツ星を獲得し続けている「カンテサンス」の岸田周三シェフ 。レストランが提案し得る“これからの時代の豊かさ”について語っていただきました。

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10年以上前から海の異変を感じていたという「カンテサンス」 岸田周三シェフ。

「年々、魚が小さくなって品質も悪化し、注文しても『ない』と言われることが多くなりました。なぜだろう、何が起きているんだろうとずっと考えていました」

2017年からChefs for the Blueの勉強会に参加すると、異変は日本近海で顕著であること、その大きな要因に、乱獲という人為的なものがあることを知りました。

「驚くと同時に、そういうことだったのかと腑に落ちました」

それまでは何も考えず、一方的に、自分が欲しい魚をオーダーしていたそうです。

「魚種だけでなく、サイズも細かく指定していました。それを揃えるのが仲買さんの腕の見せ所で、彼等もまたカンテサンスのチームの一員なのだからと細かく希望を伝えていました。
当時はそれで切磋琢磨していたのですが 今となってはそれはわがままと言えるでしょう。」

しかし勉強会を通じて、それが海への過剰な負荷につながることがわかってきました。いつしか、「今日は何がありますか?」と問いかけることから、その日のやり取りを始めるのが習慣になったと言います。

とはいえ、品質の高い食材を求める事は諦められません。以前は築地の仲買一社ですべて賄っていましたが、全国各地の漁師や仲買と新たに取引を開始。水揚げに合わせて日替わりで買い付けるようになりました。

発注の手間が増え、1種類の魚を通して使える期間も短くなりました。

しかし、「日本には僕が知らない魚がまだまだたくさんいるんですよね。フランスでは、年間通じて使う魚はせいぜい20種類くらい。日本の海の豊かさを改めて思い知りました」。

事実、世界の海に約15000種いる水生生物のうち、25%に当たる約3700種が日本の近海に生息しています。その中で水揚げされ、実際に食べられている魚は約400種。

聞いたことのない魚も、すすめられて興味がわいたら送ってもらい、まずは使ってみるといいます。それでおいしければ、胸をはってメニューにのせます。

「贅沢さやおいしさの指標は、時代とともに変化すると思うんです。牛肉も、赤身のおいしさがだいぶ浸透してきました。もう一般的な高級魚にこだわる時代ではないのかもしれません。

むしろ誰も名前を知らない魚や、捨てられてきた部分に価値を見出し、お客さまを満足させるおいしい料理に仕立てて提供する。それこそが贅沢であり、特別なサービスになっていくのではないでしょうか。

今後はますます、料理人に技術やアイデアが求められる時代になるはずです」

人気のある魚は、釣った後の処理もきちんとしているため、良い状態でレストランに届けられます。低利用魚でも、料理人が価値を見出せば、漁師や仲買は高級魚と同等に扱うようになる。結果、品質がさらに上がるのではないかと岸田シェフは考えています。

「サステナブルを意識することが、制約になると考えるシェフもいるかもしれません。確かに僕も、以前と同じようには食材を選べなくなりました。でもそれは、今の時代に合った新しい豊かさの提案につながると思っています。

まずは、海の問題を知ることに大きな意味があります。

何をするべきなのか、明確なアクションプランはまだありません。いきなり完璧なサステナブルを目指すのではなく、一人ひとりが少しずつでもできることを探していけばいい。

僕にとってそれは、お店で出す料理や様々なメディアを通じて、この現状を発信していくことです。時間はかかると思いますが、みんなで一緒に大きな渦を作っていきたいですね」