「他のシェフや生産者と交流することで、知識が増えて、課題が見えて、思考がアップデートされる。それをずっと繰り返してきました」

C-Blueインタビューvol.8は、「ドンブラボー」の平 雅一シェフです。クラシックなイタリア料理をベースにしたクリエイティブな料理で食通を唸らせる一方、ピザ専門店「CRAZY PIZZA」を都内各所に展開。地域社会にも意識を向け、フットワーク軽く様々なアクションを起こしています。同業者や生産者との交流が、そんな平シェフの思考を刺激し続けています。
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コロナ禍を経て頻度はずいぶん減ったものの、以前から料理人仲間と様々なテーマで勉強会を開いているという平シェフ。営業が終わってから1時間以上かけて都心に向かい、解散は深夜、はたまた朝まで飲んで語り合う。勉強会は出会いや発見の場であり、純粋な楽しみでもあるとか。Chefs for the Blueの会も、シェフ仲間に誘われて何気なく足を運んだのが最初でした。
それは、海の異変を感じ始めた時期でもありました。得意料理に使っていた秋刀魚や桜えびが手に入りづらくなってきた。他の魚も旬がずれたり短くなって、使いたい時期に使えない……。「おかしいとは思いながら、今年はそうなのかと、大して気に留めていなかったんです。でも改めてデータを目の当たりにして、これはまずい、と」

同じ頃、「もの凄い鯖」で人気を博した干物店「越田商店」に出会います。銚子港が目と鼻の先にありながら、越田商店ではノルウェー産のサバを使っています。以前は国産でしたが、数が減り小さくなったことで、20年程前から大きく脂ののったノルウェー産に切り替えていました。
「ノルウェーでは政府や漁業者、消費者が一丸となってサバの資源管理に取り組んできたため、長期間にわたり資源量がずっと安定しているのだそうです。日本のサバとはあまりに状況が違う。越田さんはそんな海の現実を、干物を通じて伝えようとしていました。その時に気づいたんです。僕も料理を通じて、おいしさだけじゃなく、自分の『思い』を表現することができるんだと」。

「ドン ブラボー」以外にも、ピザ専門店「CRAZY PIZZA」を展開している平さん。ピザは「キャッチーで、誰にでもわかりやすいおいしさ」だからこそ、いろいろな仕掛けをトッピングできると考えています。
たとえば、農家から提供してもらった規格外野菜などを使い、15歳未満の子どもに1ピース100円で販売する「キッズピザ」という取り組みがあります。
「マックのハンバーガーも否定はしません。でも生産者がわかる食材を使い、愛情込めて作られたピザを食べるという選択肢があることを知ってほしくて。子どもの頃の食体験って、すごく大事だと思うんです」
貧困家庭の子どもたちの存在も気がかりでした。普通の生活をしているように見えても、実は1日1食しか食べていない子どもが町の中にいる。その一方で、畑やレストランでは様々な理由で食材を捨てていることに疑問を感じたと言います。キッズピザにとどまらず、子ども食堂や、代々木公園での炊き出しも実施。最近は、常設の無償ピザ屋台の実現を目指し、調布市と交渉を進めています。

「社会貢献とか課題解決とか、そんなつもりは全くありません。料理を通じて誰かが喜ぶことをしたい。ただそれだけなんです」

また、CCCMKホールディングスの「Tカードみんなのエシカルフードラボ」が主催した企画では「CRAZY PIZZA」を舞台に、平飼い鶏や有機野菜、未利用魚やASC認証魚など様々なエシカル食材を使った「未来が変わるピザ屋さん」を1日限定でオープンさせました。
「僕自身も勉強しながら進めた企画でした。気づいたのは、エシカルとかサステナブルって、環境に良いだけじゃない。すごくおいしい、ということです。エシカルな魚に限定して調達したのですが、僕たちのような店で使えるものも結構あることを知りました」。

こうした取り組みや勉強会を通じて、食材を見る目も変わってきたと言います。「実は環境問題にも昔はそれほど興味がなかったんです。味が全てだと思っていたので。でも、知識が増えたり、他のシェフの考えを聞くうちに、見えていなかったことが見えてきました」。
「魚が減少している局面で、卵を抱えた母魚や稚魚を守らず獲ってしまえば当然、さらに減ってしまいます。魚が世代をつないでいくためにはどういう漁をすればいいのか、などを考えるようになりました」

まずは知ることが大切だと考えている平さん。「他のシェフや生産者と交流する中で、知識が増えて、課題が見えて、思考がアップデートされる。それをずっと繰り返してきました。正解はわかりませんが、僕にできることがあれば何でもやっていきたいですね」。