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C-BlueメンバーインタビューVol.15は、昭和22年創業「鰻 はし本」の4代目・橋本正平さんです。ニホンウナギが絶滅危惧種に指定されたのが2013年。鰻文化の担い手の一人として、試行錯誤を重ねながら、資源保護に向けた道筋を探り活動に取り組んできました。日本の食文化を代表する食材のひとつでありながら、実はあまり知られていないウナギ事情と共に、橋本さんの思いを聞きました。
現在、日本で流通しているウナギは99%が養殖で、天然の稚魚(シラスウナギ)を採捕(漁捕獲)して育てられています。日本におけるニホンウナギの稚魚の採捕量は、1963年漁期の232トンをピークに激減し、60年後にあたる2023年漁期はわずか5.6トン。IUCN(国際自然保護連合)は2014年、ニホンウナギを「近い将来における野生での絶滅の可能性が高い」として「絶滅危惧1B類」に指定しています。ニホンウナギ以外にも食用ウナギは3種類ありますが、いずれも減少傾向であることに変わりありません。日本の養殖ウナギの生産量も80年代をピークに大幅に減っています。
「不漁で流通がひっ迫し、価格が高騰するようになったのは、2000年代半ば頃からです。資源がどうのという以前に、鰻屋として店を続けていけるのか不安になりましたね。価格を抑えるために、料理の一部をナマズなどで代用したり、精進料理を参考にナスを使ったもどき料理を出していた時期もありました。以前は捨てていたヒレや尾を串にしたり、骨せんべいの提供を始めたのもその頃です」。
シラスウナギの採捕量は上限が決められているものの、それに満たない年が続いており、規制自体が形骸化しているのが現状です。絶滅危惧種に指定されていながら資源管理が進まない理由の一つは、データがないことだと橋本さんは考えています。ニホンウナギはマリアナ海溝付近の海域で産卵・孵化し、稚魚は海流にのって日本など東アジア沿岸に到達することがわかっています。しかし生態にはまだ不明な点が多く、シラスウナギの流通経路もオープンになっていない部分があります。
「はっきりしたことがわからないから議論が進まないのだと思います。かといって、ほったらかしにしていい話ではありません。恩恵を受けている以上は、きちんと保全して次の世代に残していかなければなりません」。
問屋を介して活鰻を仕入れることが一般的な中、橋本さんは問屋だけでなく、生産者からも直接買い付けています。2軒の生産者のうち1軒は、鹿児島県の大隈半島で“横山さんの鰻”を手掛ける「泰斗商店」です。
「以前は、生産者とつながるなんて考えたこともなかったのですが、SNSで横山さんの発信を見つけて思わずメッセージを送りました。横山さんは当時すでに10年以上、完全無投薬でウナギを育てていました。生産者が表に出てくることがないウナギ業界にあって、大切に育てているウナギをブランド化して価値をつけたいという横山さんの熱意に共感し、取引を始めました」。
直接買い付けているもう1軒は、岡山県の西粟倉村という中山間地域で林業と水産業の循環を目指し、“森の鰻”を生産している「エーゼロ」です。同社は、林業で捨てられている木くずを燃料に生簀の水を温め、ろ過して循環させながら、作物の栽培にも活用しています。「ウナギが減っている原因は、乱獲や海流ルートの問題だけでなく、環境の変化もあると言われています。山、川、海はすべて繋がっており、それらを行き来して生活するウナギを守るには、広範囲の環境を保全しなくてはなりません。鰻の問題は広い視野で向き合うことが必要なんですよね」。
2018年には、エーゼロと中央大学法学部教授で鰻の生態研究などを行う海部健三さんと共に「うなぎの未来の相談会」を発足。ウナギに関わる人たちが立場を超えて課題を共有し、解決に向けて話し合う場を設けてきました。そして今年、新たに始めたのが「うなぎ食べ継ぐプロジェクト」です。一般の消費者でも会員やサポーターとして活動に参加できる他、「鰻 はし本」をはじめ加盟店で対象メニューを注文・購入することで、売り上げの10%がシラスウナギの買取とビオトープへの放流、生育環境整備に使われます。
「活動する中で、鰻(天然)はまだいるところにはいる、ということもわかってきました。 漁師さんに連れていってもらった夜の小川には、手を入れて触れても逃げない鰻が何匹も見られました。こんな場所がまだあったのかと、希望が見えた気がしましたね。ウナギは居心地の良い場所に棲みつく習性があるそうなので、データをとって人工的にそういう環境を作れないか、模索しているところです。まだ始まったばかりですが、多くの人を巻き込んで、このプロジェクトを前に進めていきたいですね」。
▼うなぎ食べ継ぐプロジェクト
https://tabe-tsugu.jp/unagi