「天然真昆布が深刻な枯渇」というニュースを知ったのは、2021年夏の小さな新聞記事からでした。ちょうど7−8月の収穫期を終えた頃、紙面片隅の短い文字列を何度も目で追いながら、しばらく呆然としたことを覚えています。過去数年の減少傾向は知っていたものの、21年はほぼ「採れていない」という異常事態だったからです。

ユネスコ世界無形文化遺産として登録されている“和食”。その和食に必須である出汁(だし)は、鰹節や鯖節、鮪節、乾燥させたカタクチイワシ(いりこ)やトビウオ(あご)といった動物性素材と昆布、精進出汁の場合はシイタケやカンピョウといった植物性素材と昆布を組み合わせて作ります。

つまり、どんな作り方をしようとも昆布は必須。そして、四大出汁昆布と呼ばれる羅臼昆布、利尻昆布、日高昆布(三石昆布)、真昆布のなかでも、品質の高さに加え圧倒的な生産量を誇るのが真昆布なのです。天然真昆布の枯渇が料理界の今後や和食の未来に与える影響の大きさを考えたとき、思わず背筋が寒くなりました。

かねてより昆布への思いを聞いていた【てのしま】 @tenoshima884 の林亮平シェフ、「八雲茶寮」の梅原陣之輔シェフ jinnosukeumeharaとともに現地に飛んだのは、翌年の収穫期でした。南かやべの浜に伺い、生産者や流通事業者の話を聞き、北海道立工業技術センターの安井センター長をはじめ多くの方々と意見交換を行いました。水温上昇などの理由で育ちが悪かったり爆弾低気圧による高波に流されてしまう昆布が多い一方で、従来通り放流しているウニの食害が甚大であること、そして地元生産者の間では昆布よりウニ生産に注目が集まりやすいことを学びました。

料理界にとって、また日本の食文化にとって昆布はかけがえのないものです。同時にうま味値の大きいプラントベース出汁食材として、世界からの注目も大きいのです。ですがその本来の価値が地元で十分に理解されていないために、危機感がほとんど広がらず、課題解決に向けた動きにつながりにくいと判断しました。その後Chefs for the Blueとして函館市や北海道大学との対話を長く続け、函館真昆布の価値や現状を広く知ってもらうことの重要性を理解していただきました。

市民や生産者に向けた今回のシンポジウム開催は、函館真昆布はもちろん、和食の今後に向けたアクションの第一歩です。豊かな海と食文化を未来につなぐために活動する料理人チームとして、Chefs for the Blueは今後も昆布の未来にコミットしていきます。

(写真前半は、一大産地である南茅部の漁師・川合さんを訪問したもの。一度乾燥させた昆布を蒸気で柔らかくしてから熨す作業。後半は、天然昆布から採取した種苗を育成する施設です)